戸籍は日本と中国にしかない古い国民管理システム - 戸籍と国籍の話

2020年12月

日本人と結婚しても外国人は日本の戸籍に入れない

私の働く会社の親会社の社長もアメリカ国籍の方との国際結婚である。
ところが社内のあらゆる人から「あの社長は旦那と籍が入ってないのだ」と聞かされた。
・・・当然である。
日本国籍を所有する人(以下、日本人と称す)と他の国の誰か(以下、外国人と称す)との結婚である限り、その外国人は日本に帰化でもしない限り、日本の戸籍には入れない。
この噂話の趣旨はおそらく「彼はいわゆる内縁の夫で本当に結婚していないのだ」と言いたいのだろう。
楽しいゴシップに水を差すようで悪いが、日本人との国際結婚である限り、全ての外国人が日本の戸籍には入れないのだ。
では、どうやって、ちゃんと結婚していると証明できるかといえば、それは日本人側の戸籍の備考欄に「どこそこの国の法律に従って○○(←外国人配偶者の名前)といついつ結婚して婚姻関係の事実がありますよ」ということが載っている。
それが、日本人同士で結婚する場合の「籍を入れる」と同等のこととなる。

外国人の住民票については2012年に改定された

以前は、日本に住む理由が結婚であろうが仕事であろうが、外国人には住民票もなかった。
2012年に法改正がなされて今は外国人でも住民票がある。
なので、今は日本人と結婚している外国人側の住民票にも「日本人○○の配偶者」ということが記載されていて、 それで「籍を入れている」と同等の証明ができるようになった。
外国人に住民票がなかったときは、唯一、外国人登録証のみが日本で居住するための身分証明であった。
外国人登録証は、入国管理局で「どのようなステイタスで日本に居住するか」を申請して許可をもらい、居住する役所でその許可証を提示して発行してもらうのであった。
日本人と結婚して日本に在住するなら「日本人の配偶者」というステイタスになり、外国人登録証にも日本人配偶者名が記載されているから、それで結婚の事実を証明できたのだ。

戸籍制度は世界的にも超レアなシステム

戸籍制度はもはや今は日本と中国にしか存在しない古い国民管理システムである。
2007年までは韓国にも存在したが今は廃止となっている。
戸籍は英語では family register や household register の名のとおり、家族ごとに国民を管理するシステム。
日本人としては当たり前のように身についている戸籍制度だが実はこのシステムは世界的には珍しい制度である。

他国は家族ではなく個人を管理するシステム

他の国の国民管理は個人をファイルする。
アメリカで例えば、ソーシャルセキュリテナンバー(SSN)で個人の全てが管理されている。
銀行、クレジットカード、その履歴、税金、家を借りるとき、免許証、学校、給与、年金、とにかくありとあらゆるものがSSNで管理されている。
逆にこれがないとアメリカでの社会的な暮らしは困難である。

また結婚や出生などの届出にしても個人が管理されている。
結婚は家同士ではなく個人同士のイベントという扱いだ。
居住する地域の役所でマリッジライセンスを申し込んで取得し、牧師(minister)を前に婚姻する者同士が永遠の愛、・・・もとい、死が二人を分かつまでの愛を宣誓してその牧師が書類にサインをしてそれを役所へ届けて婚姻関係が成立する。
アメリカの場合は州ごとに法律が違うのでその州の法律に従い婚姻を行う。
牧師と言っても必ずしも教会にいる牧師でなくてもよくて minister のライセンスがある人なら誰でもよい。

ところで、ブログなどのアメリカの結婚話で「入籍」のワードを使われているのを目にするが、これは厳密に言えば誤りで、単に婚姻の書類を届け出て婚姻の事実がファイルされたというだけある。
日本は「結婚=入籍=相手の家に入る」だが、アメリカ(おそらく他の多数の国も)
「結婚=個人と個人が夫婦になる」というだけのことである。

出生にしても然りで、日本のように○○家の長男/長女・次男/次女が生まれましたという届出ではなく、アメリカでは「誰と誰の間に生まれた子供です」の届出である。
そこに妻側の結婚前の姓を記す箇所もあるが、基本的にはそのカップル間の子供という届出でありそれ以上でもそれ以下でもない。

国籍とは「どこの国の人か」で戸籍とは別の定義

これまで述べたことを説明すると「では外国人には国籍はないのか」なんてことを訊かれた。
もう、国籍と戸籍の概念が一緒くたになってしまっているのだろう。
まあ、簡単に言ってしまえば以下のようになる。国籍と戸籍は全く別物である。

 国籍 nationality … どこの国の出身者か
 戸籍 family register … 国民を管理するただのシステム

当然、国籍は世界の各人が持っているべきもの。国籍がなきゃパスポートも作れない。
通常、国籍はどの人種から生まれたのか(血統主義)やどこの国で生まれたのか(出生地主義)で決まる。 それは国ごとによって取り決めが違う。
日本の場合は、血統主義で日本人同士の間で生まれた子は自動的に日本人となる。
アメリカの場合は、基本的に出生地主義でアメリカで生まれた子は自動的にアメリカ人となる。
しかし、血統主義も採択されていて、例えば、違う国に在住しているときに生まれた子供のどちらかの親がアメリカ人であればアメリカ人とすることができる。
「自動的に」とは述べたが、いずれの国にしても出生届をしなければ無国籍になってしまうのは言うまでもない。

二重国籍について

日本では二重国籍は認められないが、日本人と外国人との間の子供の場合、20歳までは二重国籍が認められていて、20歳を過ぎたらその子供は自分でどちらの国籍になるかを選択しなければならない。
知人に日本人とアメリカ人のハーフの女性がいるが、やはり20歳までは日本とアメリカの2つの国籍を持っていて、20歳になったときにアメリカ国籍を選択したらしい。
しかし、生まれてずっと日本住まいで母国語は日本語。日本人としてどっぷりはまっているのに、もう50年以上、外国人登録証を持ち外国人として日本に暮らしているとか。
幼い頃はアメリカ人の父親と英語で話したこともあったらしいが、ご両親は早くに他界されたとのことで、今ではもう英語を話せないという。
アメリカには親戚をごくたまに訪れるらしいが「英語がわからなくて困る」なんてグリーンの目と白い肌を持つ彼女は言っていた。世の中にはこんな人もいる。

永住や国際結婚しているからといって帰化しているわけではない

よく勘違いされるが、国際結婚もしくは永住権を獲得してその国に住めばその国の国民になれると思っている人が多いようだ。 しかし、国民管理はそれほど単純には出来ていない。
その国の国民になるというのは、帰化することであり、日本のように2重国籍を認めていない国の国民なら自国の国籍を捨てることになる。
日本にしてもアメリカにしても国際結婚や永住のステイタスを獲得するのは言葉の壁が少々あっても条件さえ揃えば大して難しくはない。
しかし、帰化するにはその国の言語を操れることを含めて条件は非常に厳しくなるし、また自国の国籍を捨てでもその国の国民になり忠誠をつくす覚悟が必要である。

日本では日本国籍を所有する人を日本国民(Japanese people)と呼ぶがアメリカではアメリカ国籍を持つ人をアメリカ市民(American citizens)と呼ぶ。
国民か市民かの違いはウィキペディア「市民」によると以下である。

「市民」がその理想とするところの社会、共同体の政治的主体としての構成員を表すのに対して、「国民」は、単にその「国家」の国籍を保持する構成員を表すという点にある。市民と国民は、たまたま相互に置き換え可能な場合もあるが、そうでない場合もある。たとえば、絶対王制国家の場合、国民は全て臣民であり、市民ではない(主権や主体性を奪われてしまっているためである)。また一方で「欧州連合の市民」のように国家とは直接に結びつかないような形の市民権もあり、この場合も「市民」を「国民」と言い換えるのは適切でない。

ちなみにだが、日本国民を英語にすると a Japanese citizen / Japanese citizens と教示している人もいるが、上記のことから厳密に言えば誤りだろう。
日本国民は the Japanese people / the Japanese nation / Japanese nationals / a Japanese national が妥当なところだろう。

戸籍がない国の帰化の証明はどうするのか

日本に帰化した場合、外国籍の人にはない戸籍を持っていることが日本国民になったという証明になるが、では戸籍のない国では何が帰化の証明になるのか。
それは帰化証明書などその国民であるという証明書を発行してもらうしかない。
アメリカでは個人がSSNで管理されていると上で述べたが、それは社会的な管理システムなので条件さえ揃えば外国人にも与えられる。なのでSSNを持っていることがアメリカ市民でもない。
アメリカで帰化して an American citizen になったという証は、アメリカの国が発行する帰化証明書(Certificate of Naturalization)や国籍証明書(Certificate of Citizenship)が証となる。
アメリカ国籍取得後にアメリカ人としてパスポートを発行したことがあればそれもアメリカ市民である証明になる。

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