英語は年齢にこだわらない文化
日本語では「兄、弟、姉、妹」と性別・年齢の違いで別々の名詞だが、英語では性別の違いはあれど年齢を区別する兄弟姉妹の語はない。 兄も弟も brother であり、姉も妹も sister である。
英語では年齢の上下を重要視していない
日本の英語教育では brother や sister の前に big / elder を付ければ兄か姉、baby / little を付けると弟か妹だと教示されるが、これは年上か年下かを明確に述べる必要があるときにのみ使われる表現であって、日本語の「兄・弟・姉・妹」に匹敵するわけではない。
まして「お兄ちゃん」とか「お姉ちゃん」なんて呼びかけも英語にはない。
兄であろうと姉であろうと名前を呼ぶ。
例えば、当方の講師パパウシには妹が2人とその下に弟が1人いる。
まず「妹」や「弟」という意味で彼らを my little sister とか my baby brother と称して他人に話すことはない。my sister か my brother だけである。
妹は2人なので上の妹か下の妹か年齢的な区別の必要がある場合にのみ下の妹を my baby sister と言うことはあるが、通常はどちらの妹のことを話すときでも my sister である。
そして、弟は一人しかいないので常に my brother である。
彼らから見たパパウシは兄になるわけだが、同様に彼らもパパウシのことを誰かに話すときは my brother と述べる。
妹たちにとっては兄と弟がいるわけだが、これも前述同様、年齢が上か下かを区別する必要がある場合にのみ big / elder や little / baby などを付けることもあるかもしれないが、通常はどちらのことを話すときでも my brother である。
そして、2人兄弟姉妹だったら自分の兄でも弟でも常に my brother であり、姉でも妹でも my sister となる。
どちらか年上に big / elder が付いたり、どちらか年下に baby / little が付くわけではない。
私は妹が1人いる2人姉妹だが、私から見た妹は my sister であり、妹から見た私もまた my sister (私が言うなら I am her sister.)である。
英語では年齢の上下よりも個人を尊重している
しかし、年齢を区別して話すべき内容なんてそう頻繁にあるわけではないので、実際のところ elder / older / big / little / baby が付いた brother や sister を聞いたり見たりすることは少ない。もちろん、あるにはあるが私の経験では少ない方である。
それよりも、相手が自分の兄弟姉妹の名前を知っているときは彼らの名前を出す。これは日本語でも同じことだろう。
英語では、相手が自分の兄弟姉妹の名前を知らなかったとしても、兄弟姉妹が複数いる場合(時にはそうでなくても)、年上か年下かなんて区別ではなく my brother John や my sister Laura のように my brother や my sister の後に名前を続ける述べ方が多い。
こういったことから、英語では年齢の上下はあまり重要視されず個人を尊重している文化だということが伺える。
しかし第三者のメールや手紙の和訳が難しい
相手と英語で会話するだけなら兄弟姉妹の区別がなくても何も問題ないのだが、これが第三者の手紙などを和訳するときには、対象人物の家族背景を知らなければ和訳しづらい。
日本語の「兄・弟・姉・妹」はそれぞれが単独の語としてひとつのステータスを持っているから、brother や sister を和訳するときには「兄か弟か」もしくは「姉か妹か」を明確にする必要があるからだ。
これは実際に社内役員の家族へ届いたメールなのだが、これからは my sister は姉なのか妹なのか、また my brother は兄なのか弟なのかサッパリ見当がつかない。
メールや手紙全体の内容から推測できることもあるが、全く推測不可能なことの方が多い。
そのようなときは私の場合、my sister を「姉」、my brother を「兄」と和訳した上で、注釈に my sister は「妹」、 my brother は「弟」の可能性もあることを記載しておく。
兄弟姉妹だけでなく息子や娘のことも同じ
これは兄弟姉妹のことだけでなく息子や娘の話をするときも同じである。
息子と娘が1人ずつの2人兄弟ならどちらが年上であろうと my son / my daughter である。
どちらか年上の方に elder が付いたり年下の方に younger が付いたりすることはない。
息子が2人以上とか娘が2人以上いて初めて「elder/eldest」「younger/youngest」「first/second」などを付けた表現をする。
しかし、これも兄弟姉妹と同様で、相手が名前を知っているなら名前を述べるし年齢的な順番を明確にする必要がなければ my son か my daughter だけである。
もしくは my daughter Sarah のように後に名前を続ける。
ちなみに elder/younger は対象が2人、eldest/youngest は対象が3人以上の場合に使われる。単に比較級と最上級の違いである。
また、brother/sister/son/daughter の前に付く「年上」は older/oldest よりも elder/eldest を使う方がよろしいとされる。
理由は、older/oldest は人と物の両方に使うのに対し、elder/eldest は人だけにしか使わないからである。
但し、実際の比較級や最上級で「彼の方が年上だ/彼は最年長だ」と言うときには
He is older than me. / He is the oldest in the class. のように old を使うのが普通。
older/oldest は叙述形容詞(名詞の続かない形容詞)にも限定形容詞(名詞を続ける形容詞)にもなるのに対し、elder/eldest は限定形容詞(名詞を続ける形容詞)にしかならないからだ。
英語では年齢に関係なく呼びかけは sir か ma'am
日本語の呼びかけでは「あら、お兄さん、何か落としましたよ」の「お兄さん」の部分が「おじさん/お爺さん/お姉さん/おばさん/お婆さん」など年齢によって違うが、英語では年齢差を表す呼びかけはない。
年齢に関係なく男性には「sir」女性には「ma'am」で呼びかける。
明らかにすごく若い男性や女性だと「young man」や「Miss」と呼びかけることもあるが、だからといって sir や ma'am が年配者に対する呼びかけというわけではない。
sir や ma'am は全ての年齢層に対して使う、相手を尊重している丁寧な呼びかけである。
だから、sir や ma'am は日本語の「おじさん/お爺さん/おばさん/お婆さん」には匹敵しない。
敢えて日本語にすれば、店員さんが言うなら「お客様」、道行く人が声かけるなら…何だろう?適切な日本語が思いつかない。
とにかくとても丁寧かつ一般的な呼びかけであり、sir や ma'am と呼びかけられて悪い気がする人はまずいない。
しかし、日本語の「おじさん/お爺さん/おばさん/お婆さん」と呼びかけられて良い気がしない人がいるのも確かだ。
例えそう呼ばれても仕方ない年齢に達していたとしてもだ。
英語でも道行くお年寄りへの呼びかけとして grandpa(お爺ちゃん) / grandma(お婆ちゃん) を使うこともあるらしいが、やはり少し年配者を見下したような感じの悪い呼びかけである。
そんな英語では感じの悪い呼びかけが日本語では一般的な呼びかけなのだ。
年齢差に関係ない英語圏の呼びかけは羨ましい
私の友人が24歳の頃、道すがら通りかかった小さい子供に手を降った。
そして手を振られて嬉しかったのかその子供がニコニコしながらこう言った。
「バイバーイ、おばちゃん!」
まだ24歳の若い乙女だった友人、ショックを受けたのは言うまでもない。
そしてまた別の話だが、私は自転車に乗っていて若い男の子の乗ったバイクと接触して横転したことがある。
その直後にバイク仲間と思しき男の子が駆け寄ってきてこう言った。
「大丈夫!?オバチャン!」
確かにオバチャンと呼ばれる年齢には達していたが、しかしその単語をすんなり受け入れるにはまだ微妙な年齢だった。
見かけによらず、仲間の男の子の優しい気遣いをありがたくは思ったが、事故に合ったショックよりも「オバチャン」と呼ばれたことのショックが大きかったことを今でも覚えている。
英語だとこの場合「Are you okay, ma'am?」と呼びかけられるところだろう。
相手が「お姉さん」であろうと「おばさん」であろうと「お婆さん」であろうとだ。
そして、相手が男性だと「お兄さん」であろうと「おじさん」であろうと「お爺さん」であろうと「Are you okay, sir?」である。
これは英語文化の良い部分だと思うと同時に、年齢を重ねてきた近頃となってはとても羨ましい文化だと思えてならない。