輸入時の関税と消費税

2019年8月

海外から品物が日本に入国するとき、関税と消費税がかけられる。
日本へ初めて来た舶来品も、ちょっと海外旅行に行ってきた加工品も、海外でリフレッシュしてきた修理品も基本的には課税対象となる。
しかし、個人使用か法人商品かとか発送方法や品物の金額で課税のされ方も随分違ってくる。

まずは関税のシステムから

国内だけで品物を流通させれば、それに係る最終的な税金(所得税や法人税など)はすべて国内の税として国に納められる。
しかし海外から購入すれば、売上代金は販売した輸出者に支払われて、その売上に係る最終的な税金等は輸出者の国に納められる。
ということは、海外から品物を購入すれば、国内の税収としては一銭の得にもならない。
だから、国内の税収入にも影響がないようにと設けられているのが関税というシステムだ。

例えばこういうことである。
関税がなくて、日本のA社がフランスのB社からストールを購入したとしよう。

日本の国:
「ストールは日本にもあるではないですか。フランスB社の売上に係る年度末の税金はフランスにしか納められないんですよ。それじゃ日本の国に税金が入ってきませんので、今度からは日本国内の業者から購入してくださいよ」

A社:
「でも日本国内にはこんなデザインのストールはないんですよ。このストールは売れると思うんですよね。売れるものを購入して販売すれば弊社の納める税金も多くなるわけだし、いいじゃないですか。もし今回入荷したものが売れたら次回もフランスのB社から購入したいです」

日本の国:
「そうですか。じゃあ、こうしましょう。海外から品物を購入してもいいですけど、国内で同じ物を買ったと仮定した場合に発生し得る額の税金を日本の国にも納めてくださいよ。品物の種類によって税率を決めますから。」

これが関税というものである。
上では日本の国で例を述べたが、税率は違えどどの国でも取っているシステムである。

今度は消費税について

消費税は輸入や輸出を手掛けない人にもなじみ深い税金であろう。
輸入時に関税が無税や免税でも、消費税だけはしっかりと発生することはよくある。
なぜ輸入時に消費税を支払うのかと言えば、海外の販売相手には消費税は支払わないからだ。
なぜならば、消費税は購入するときに発生する購入者サイドの税金なので購入者が購入者の国に払うべきものだからである。
だから、輸入の場合に海外の販売者へ支払う金額は消費税を含まない純粋な商品金額だけだし、逆に海外へ販売する輸出時も消費税抜きの価格でインボイス(請求書)を作成する。

ちなみに、日本では消費税 (consumption tax) と呼ぶが、ヨーロッパでは付加価値税(VAT = value added tax)、アメリカでは販売税 (sales tax) というネーミングである。
購入の際に発生する税金という点ではどれも同じ仲間である。

関税や消費税がかけられる基準

関税や消費税がかけられる基準は、その品物の市場価値である。
「市場価値」は通常はインボイスで自己申告する形となる。
だから、商品の支払額が関税・消費税の課税価額だと勘違いしがちだが、実は支払額は市場価値としての目安にされているだけである。
だからその品物が例え無償だとしても、税関を通るときに市場価値があると判断されたら課税されるのである。
その商品の取引において金銭のやりとりが発生したかどうかは税関としては関係ないのだ。

厳密には課税対象額は「品物の市場価値+それに係る日本に着くまでの費用」となる。
だから日本に到着するまでの送料や保険料も含めて課税価額となる。
なぜ「日本に到着するまでの費用」なのかと言えば、前述のとおり、日本に入ってからの費用は日本国内での流通になり最終的な国の税収にも響かないからである。

無償修理品や無償交換品や返品商品などは、インボイスに「NO COMMERCIAL VALUE」や「VALUE FOR CUSTOMS PURPOSE ONLY」を記載するが、これは
「この商品に対する金銭のやりとりは輸出者と輸入者間では発生しませんが、商品の市場価値は記載の金額です」
ということであり、決して関税や消費税が免税になるための文言ではない。

こんなものにまで関税と消費税は発生する

加工品

一旦原材料を輸出して輸出先の国で加工してまた日本に戻ってきた加工品の全額も関税と消費税の対象となる。
たとえば、日本のA社が毛糸を中国のB社に輸出してセーターを作ってもらいまた日本に戻してもらったとする。
これも輸入商品となりセーターとしての市場価値に関税と消費税がかかるというわけだ。
毛糸はA社の物で形がセーターに変わって戻ってきただけなのに。

修理やサンプルの戻り品

海外と日本を行ったり来たりしても金銭の動きがあるならまだ納得できる余地はあるが、under warranty (保障期間中) の修理品やサンプルの戻り商品などのように金銭のやりとりはないにも関わらず、戻ってくる際には普通の輸入品のように関税と消費税が徴収される。
一定の手続きを踏めばこれらは免税になるが、免税の条件として輸出したときと全く同じ物であるという証拠書類を提出しなければならない。
再輸入するときに付加価値がついていないことは勿論のこと、形状も色もシリアル番号さえも全く変化していてはならない。
証拠書類のための一定の手続きは、それらを輸出する際に行っておかなければならない。
それを知らずに輸出して、それらが戻ってきたときに関税と消費税を請求されて「おかしいじゃないか!これは自分のものだ!」と憤慨しても時遅しなのである。

再輸入免税貨物の手続(税関)
修理のため貨物を輸出する際の税関手続(税関)
修繕のため輸出した貨物の再輸入について(共和商会の国際ロジスティクスサービス)

条件によって免税になるもの

1万円以下の品物(少額貨物の無条件免税)

「商品価格+日本に到着するまでの費用(運送費や保険料など)」が1万円以下の品物は関税も消費税も免除される。
個人使用目的で輸入する場合は条件がもっと緩くなり「上記金額×0.6」が課税価額となる。
だから商業目的で輸入する場合は1万円以下、個人使用目的であれば約1万6千円以下の課税価額が関税・消費税の免税となる。
ただし、同じ送り主から同じ受取人に短期間の間に複数送られた場合は、それらをトータルした金額が課税価額となるので注意が必要である。

ここでも海外から日本へ到着するまでの送料が課税価額に含まれることを忘れてはならない。
フェデックスで届くときはどんなに安価なものでも毎回消費税が発生するのを最初は不思議に思っていたが、よくよく考えれば送料も含めたところでの1万円以下なので、フェデックスの送料自体が高いから送料まで含めると軽く1万円は超えてしまうからである。

【1万円以下でも課税される場合】
日本産業に影響することが懸念される品物の輸入は課税価額が1万円以下でも課税される。
例)革製のカバン、バッグ、手袋等、編物製衣類(Tシャツ、セーター等)、スキー靴、革が使われている履物類等
※ただし、個人使用目的のギフト(税関告知書にGiftと表示)であれば免税

課税価額の合計額が1万円以下の物品の免税適用について(税関)

総額5千円以下のサンプル

注文を取るための見本は課税価額の総額が5千円以下だと免税になる。だたし以下の条件付き。

・製作のための見本は含まない。
・品物の1個(個数として数えられないものは1包装)が1,000円以下
・種類や性質が同じようなものが複数ある場合は、そのうちの1個だけ

総額20万円以下の少額輸入貨物は簡易税率が適用される

これは一般貨物便(荷揚地に自分で引き取りに行き通関手続も自分でする)や郵便小包(郵便局)を利用した場合に適用される。
Fedex や DHL などのような door to door の国際宅配便は対象ではない。

課税価額が20万円以下の場合には、一般関税率とは別に定められた簡易税率が適用される。
ここでの課税価額ももちろん「商品価格+日本へ到着するまでの費用」である。
一般関税率は細かい分類区分の中から税率が適用されるが、簡易税率だとたった7区分の中から税率が適用される。

例えば、衣類と一口に言っても様々の種類があるわけで、それに一般関税率を適用すると形状、材質、織物の種類、染色の種類などで4.4%〜20%と幅がある。
しかし簡易税率を適用すれば10%だけである。
簡易税率を適用すると逆に高くなる場合は、輸入者が希望すれば一般税率の適用になるし、また一般税率では無税や免税になるものはちゃんと無税や免税になる。
ただし、携帯品、別送品、そして以下のような自国産業への影響を考慮される物品には簡易税率は適用されない。

例)
・米などの穀物とその調製品
・ミルク、クリームなどとその調整品
・ハムや牛肉缶詰などの食肉調製品
・たばこ、精製塩
・旅行用具、ハンドバッグなどの革製品
・ニット製衣類
・履物
・身辺用模造細貨類(卑金属製のものを除く)

簡易税率の話は関税だけの話であり、消費税や酒税などはちゃんと請求される。
2個以上に分割発送の場合は、これらの総合計が課税価額となる。

主な商品の一般関税率の目安(税関)
総額20万円以下の簡易税率(税関)
総額20万円以下の貨物の簡易税率 詳細版(税関)

発送方法によってかなり違う関税と消費税の課税方法

Fedex や DHL などの国際宅配便を利用するのとEMSを含めた郵便局の配達を利用するのとでは課税のされ方がかなり違う。
というのも、陸揚地に自分で品物を引き取りに行って通関手続きまでする「一般貨物」や税関手続きまで全て代行してくれる Fedex や DHL などのようなクーリエと呼ばれる door to door の国際宅配便はきちんとした税関手続きを踏むが、郵便局のEMSを含む国際郵便は税関に申告して許可を得る必要がないからだ。
その理由は、郵便局から発送する物は個人利用者が多いだろうという前提だからだ。

国際郵便は通関検査が行われないわけではなく、国際郵便交換局(国際郵便を取り扱う郵便局)という所の税関出張所で一応の検査は行われる。
消費税や関税が発生する場合はそこから請求が来るが、クーリエに比べてやっぱり税額が安い。
しかし、輸出入の証明書は発行されないので、修理品を再輸入する際に関税を免除してもらうこと前提で輸出する場合は、郵便局を利用するのは適切ではない。

余談だが、私の経験上、クーリエを利用するなら Fedex がベストである。
三国間取引のスウィッチングインボイスや修正申告手続なども慣れたものだし、世界のどこから発送してもスムーズにいく。
ヤマト運輸にも国際宅配便があるが、その国に駐在の担当者次第で知識量や対応が全く違う。
フランス駐在の担当者には適切な発送方法のアドバイスなど良くして頂いたが、別の国の駐在担当者は三国間取引の知識が不足で結局 DHL のアカウントを取り DHL に依頼したことがあった。

個人輸入通関手続(税関)

商品の中身をチェックできる税関

特別に定められた品物を除いて、通常は「商品代+日本到着までの費用」が1万円以下の輸入品は関税も消費税も免税となる。
しかし、極端に違う金額を記載した場合、例えば、インボイスや送付状や税関告知書に1,000円と記載していても、品物はどう見ても10万円はするものだと判断された場合には、その市場相場の金額に課税される。
なんで商品の中身がわかるのだ?といえば、それが商品だろうがギフトだろうが輸入国の税関は商品チェックのためにその箱を開ける権利を持っているからだ。
ただ、箱が開けられるのは毎回ではなくランダムらしいので、10万円の物を輸入してもインボイスや送付状に商品の値段を数千円程度で記載して、関税や消費税を支払わずに済んだという例もあるかもしれない。
ただし、それは脱税だし、万が一その物が紛失した場合は、補償があったとしても記載の金額までしか補償限度はない。

あまり公言はできないのだが…

サンプル品や修理品などの場合、市場価値より結構な安価のインボイスが添付されていることがよくある。逆にこちらからの返品などもそうすることがある。
ただし、前述のように紛失した場合には良くても記載の金額までしか補償はされないので注意は必要である。
ただ、サンプル品や修理品のやり取りは、税関関連に重きを置いて対応するよりも輸出者または輸入者相手との兼ね合いの方が結構重要である。
元々は自分の物なのでなるべく税金を払いたくないというのが輸入者側の本音だから。

先日もこんなことがあった。
フランスのジュエリーデザイナーへ返品するサンプル品があったので、先方へインボイスはどうするべきかメールで尋ねていたが、数日待っても返信がなかった。
売場担当者から一週間以内に返品するように言われていたこともあり、相手も急いでいるのだろうし、インボイスを「安価で作ってください」とも言いにくいのだろうと思い、このデザイナーのラインシートを見ながら、適正価格でインボイスを作成して Fedex で発送した。
ところが3日後、先方から「関税を払えないので一旦サンプル品を戻す」との連絡が来た。
商品点数46点1,790ユーロ(約21万円)に対して500ユーロ(約6万円)の関税と付加価値税が相手に請求されたのだ。
真面目にインボイスを作ったせいで往復分の Fedex 送料を支払う羽目になってしまった。
結局、サンプル品は彼女が日本に来たときに渡すことになった。
普通に考えれば、日本に来る飛行機代の方が高くつくだろうと思うが、そこは人間の心理の不思議なところで、元々予定していた来日予定の飛行機代よりも支払う予定ではなかったものに支払うことの方がもったいないと感じてしまう。
しかも、そのサンプル品は彼女の物なのだから。

前述の発送方法で課税のされ方が違うことから、郵便局のEMSやSmall Packet(小型小包便) を利用すれば、もしかしたらそこまで高額の関税や消費税は請求されなかったのだろうと思う。
ただし、small packet の送料は破格値だがトラッキングも補償もないので要注意である。
(EMSはフランスに入国後は La Poste の Chronopost やColissimo 扱いになる。)

自分のものに税金がかかるのは輸入品だけではない

しかし、よく考えてみえれば、自分の物に税金がかけられるのは何も輸入品ばかりではない。
土地や住宅を持っていれば固定資産税、自動車を持っていれば自動車税、親からであろうと資産の相続を受けたら相続税や贈与税。
自分のものや家族のものでも上手く税金を徴収するシステムになっている。
税金徴収の目的はそれが誰のものかとかいう問題ではないようだ。
そう考えれば、自分の物でさえ輸入品に関税・消費税がかかるのは納得が出来る…というか納得せざるを得ない。

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