ずいぶん昔NOVAに話だけ聞きに行ったことがある

2019年6月

英会話初心者のころに、英会話教室のNOVAに申し込みそうになったことがある。
申込書まで書いたが、結局は申し込まなかったのだ。
もうかれこれ19年前の2000年6月のことで、NOVAが破綻する2007年より7年も前の話である。
だから、現在のNOVAとは同じではないであろうことを予め申し上げておく。

NOVAに行こうとしたきっかけ

英会話に興味を持ち始めてから、英語を母国語とする英語の先生を探していた。
友人が、米海軍を定年退職したアメリカ人から英会話を習っていて、そこにも興味があったが、なんとなく個人の方から教わるということに物足りなさを感じていた。
別段理由もないのだが、おそらく上達に繋がるという点において半信半疑だったのだろう。
その点、大手の英会話教室は、カリキュラムもあり段階を踏んで着々と登って行けるのではないかと期待したのだ。
当時、NOVAはテレビでやたら宣伝されていた。そのためか、他の大手英会話教室でもよかったのだろうが、NOVA以外に思いつかず、大手に行くならNOVAだと思い込んでいた。
1レッスン2,000円程度で流暢になれるようなコマーシャルをしょっちゅう見ていたから、まんまとサブリミナル効果にはまったのかもしれない。

しかし良くない噂もチラホラ

しかし、NOVAに関するあまりよろしくない体験談を身近で聞いていた。

【その1】
Aさんはイギリスに留学したことがあり日常英会話は全く問題ないレベル。
彼女は英語に携わる仕事に就いていたため、ビジネス英会話を学びたいとNOVAに入会した。
「もちろんビジネス英会話レッスンも受けられますよ」
という入会前のNOVAの説明はどこへやら、レッスンはいつも日常英会話だけで終る。
「今さら日常英会話をしても仕方ないのでビジネス英語をお願いします」
と彼女は何度も訴えるが何も変わらず、その後もレッスンは日常英会話のままだった。
そういう具合だったので、間もなく足が遠のいてしまった。

【その2】
Bくんは英語を話せるようになりたいとNOVAへ入会した。
最初はスケジュール通りにレッスンを受けていたが、仕事が多忙になると同時に、徐々に希望の時間にレッスンを受けることが難しくなってきた。
入会前の説明では、途中で解約してもレッスンを受けていない分は返金はされるということだったので解約して返金をお願いした。
しかし、待てど暮らせど返金の手続きをされる様子はない。
何度かNOVAへ足を運ぶが、受付で「上の者には伝えております」と言われるばかり。
ある日、とうとうBくんは受付で
「上の者とやらと直接話すから、今度そいつがいる日時を教えろ!」
と怒鳴ったそうだ。
その後、無事返金されたかどうかは不明である。

とりあえずNOVAに話を聞きに行くことにした

こんな良くない噂を身近で聞いていたのに、私はあまり気にしていなかった。
なぜならば、実際にNOVAに通い続けて英語が上達した人も知っていたし、前述の例の2人は運が悪かったくらいにしか思っていなかったからだ。
それに、ビジネス英会話を望んでいるわけでもなく、通い続ける自信もあったから返金云々は私には関係のない話とさえ思っていた。
「とにかく話だけでも聞きに行こう」
NOVAへと向かった。
駅前留学という枕詞のようにNOVAのロケーションは駅前にあることが多いらしい。
この土地でも現在のNOVAは駅前にあるようだが、当時はアーケード内にあった。
NOVAの入り口の前に立つと自動ドアが開き中へ入る。
「あの、話だけ聞きにきたんですけど」
受付でそう伝えると、受付の女性に「どうぞー、こちらへ」と喫茶店のテーブルのようなところに案内された。
そこで座って待っていると、すぐに奥から20代前半くらいの女性が出てきた。

初期費用やレッスン料金について説明を受ける

レッスンにかかる金額は、不思議なことに、当時一番気になっていたことなのに今では一番よく覚えていない。とにかくトータルすれば大金だったことは覚えている。
うろ覚えだが1年だか2年だかという期限付きのチケット代が初期費用を含めて3、40万円くらいしたのではなかろうか。
確か50枚綴りが1年の期限、その倍の100枚綴りが2年の期限という感じだったと思う。
チケット綴りの枚数はもっと少なかったかもしれないし多かったかもしれない。
何しろ2年期限チケットを購入すれば1チケットの単価が2,300円程度と説明された。
それを入会時に購入して、レッスン時にチケットを渡すというシステムだ。
グループレッスンで1枚〜2枚くらい、マンツーマンになると一気に5枚くらいを消費する。
グループレッスンにも種類があったようで、それに応じて1枚だったり2枚だったりする。
「できればマンツーマンがいいけど、1レッスンが2,300円程度なら、まあいいか。」
と思った。
ただ、入会時に一括で全部を払ってしまわなければならないので、いくら単価が2,300円ぐらいだとしても、とても高価な買い物だ。
最初に一括で払えない人にはローンという手段も用意されていた。
内容はともかくとして、金銭的な面では構える必要があった。
「とりあえず今日は内容だけ聞いて帰ろう」

講師は色々な国の外国人

講師には色々な国の人がいて毎回違う講師になる可能性があることを説明された。
そして指名ができないことも付け加えられた。
講師は、英国や米国だけでなく、東南アジア系や英語圏ではない出身者もいたようだ。
私としては、英語の本場であるイギリス人かアメリカ人だけで毎回同じ講師がいいと思ったが、その私の心を見透かしたようにこう言われた。
「英語は色々な国の人達に母国語として使われています。それに世界共通語ですから、どんな国の訛りの英語にも適応できるようにと、NOVAには色々な国の講師がいるのです」
今考えれば、長期間安定して働く講師がいなかったから、そうせざるを得なかったのだろう。
物は言いようだ。セールストークはうまい具合にできている。

簡単なテストをされた

英語で受け答えをする簡単なテストがあった。1つ2つくらいの質問に英語で答える。
内容は全く覚えていないが、そのテストに答えたら、
「あなたならレベル2からスタートできます」と言われた。
”レベル2からスタートできるなんて、私って結構英語の素質があるのかも”
と喜んだが、何のことはない。
これもセールストークの一環として仕組まれていたのだと後に気づくことになる。
この数ヵ月後、当時勤めていた会社の上司が
「俺、昨日NOVAで少しレベルテストを受けてさ、初めての挨拶でどう言うか訊かれたから How do you do? って言うって答えたんだ。そしたら、レベル2からスタートできるって言われたよ」
と、嬉しそうにしゃべっていた。
おそらく、よっぽどじゃない限り、みんなレベル2からスタートするのだ。
ちなみに、この上司はすぐにNOVAに入会してレッスンに通い出した。

細かいレベル分けがされている

パンフレットを広げて、英会話のレベルについて説明された。
8段階くらいあったのではないだろうか。
とにかく「こんなにあるの?」と思うくらいレベル分けがされていた。
正確なレベル名までは覚えていないが、下は超初心者から上はビジネスレクチャーまであった。
このレベル段階に応じて徐々に上達していくというわけだ。
ビジネスレクチャーの前にはビジネスというレベルがあった。
ビジネスはビジネス英会話だが、ビジネスレクチャーとなるとプレゼンなどのレクチャーができるようになるらしい。
ビジネスの上にもまだレベルがあることに驚いたが、今考えると、前述した体験者の話から、私の地域に所在していたNOVAではビジネスレベル以上を教えられる人はいなかったようだ。

入会の意志を確実にさせる決め台詞

話を聞いているとだんだんワクワクしてきた。
細かいレベル分けがされて徐々に上達してくんですよー的な説明を受けると
「本当にきちんと教えてくれるんだねー」と思ってしまったのだ。
「こんなレベルにまでなれますかねー?」とビジネスレクチャーを指さしながら私は尋ねた。
「ハイ、なれますよ!」
私に説明をしていたNOVAガールはキッパリと言い切った…。
今思えば、彼女の断言は結果的に大嘘なってしまう可能性もある。
なぜならば、上達するかどうかは本人のことだから、いくら教室で素晴らしい授業を提供しても本人が努力しなければ上達は望めない。
その当の本人が努力もせず「教えてくれるかどうか」と他人任せで受身感覚でしかなかったら、とてもじゃないけどビジネスレクチャーまでのレベルにはなれない。
まして、このスクールにはビジネス以上を教えられる講師はいなかった(と思う)のだから。
しかし、それにしてもセールストークはよくできている。この断言はセールストークの最終段階では決め台詞のようものだ。
正直、尋ねた時点では「ここまでは無理だろう」という気持ちで訊いたのだが、こうキッパリと「なれますよ!」と言い切られたら、「本当に自信を持って教えてくれるのか」と信頼しきってしまうのである。
ちょっと話を聞くだけのつもりだったのに、私はこの時点でほぼ入会の意志を決めつつあった。

テレビ電話のような機材を勧められた

それから、なぜだかテレビ電話のような機材も勧めだしてきた。
なんでも、それを自宅に取り付けると自宅でいつでもレッスンが可能らしい。
「教室でレッスンを受けるには、人気の時間帯だったり講師の都合だったりで予約が取れないときもあります。そのために、期限内にチケットを使い切れない場合もあるかもしれません。だけど、このモニターを家に設置すれば教室に来ることなくレッスンが可能なので、スケジュール的にもっと柔軟に対応できます。」
というような趣旨だった。
金額はその時点で言われなかったと思うが当然高額なのだろうということは察しがついたし、特に必要だとも思わずむしろ「なんでこんなものを勧めるのだ?」という気持ちが大きかったので即お断りした。
またまた今思えば推察論だが、おそらくその通信機器を使えば他の地域の講師も対応できるし、またその機材を販売すればそのマージンも入ったのだろう。

なぜか私の趣味の話になる

どんな流れでそうなったのだろう。私の趣味の話になった。
突然話が切り替わったら「おや?」と思うだろうから、おそらく自然な流れで「他に趣味とかされてますか?」なんていう質問があったのだろう。
当時、私はバンド活動に夢中になっていたので当然その話をする。

NOVAガール「バンドでは何を担当しているんですか?」
私「ドラムです」
NOVAガール「えーすごいですねー!」

こういう返しは聞きなれていたが、やはり、こう言われると悪い気はしない。
私は調子に乗って、どんなにドラムを叩くのが大好きかを意気揚々としゃべる。
そしてNOVAガールも私の話に身を乗り出してのっかってきた。
「私の友人も○○というバンドをしているんですよ。先日もライブを見にいきました」
とNOVAガールが言うではないか。
なんと世の中は狭いもので、そのバンドとはそれまで2回ほどライブセッションをしたことがあったのだ。
話は当然のように盛り上がり、しばらくバンドの話ばかりしていた。

不信に思い始めた謎の1000円請求

大好きなドラムの話を散々しゃべって、すっかり気分良くなって気を許してしまったのだろう。
私も単純なもので、これですっかり入会の意志を決めた。
ここまでは、おそらくNOVAのセールストークマニュアルの通りになってしまったのである。
NOVAにセールストークのマニュアルが存在するのかすら知らないが「なぜだかそうなった」点が多いところを考えれば、おそらくマニュアル通りだったのだろうと社会経験もそこそこ豊富になった今なら容易に想像はつく。
しかし、このNOVAガールにとっては残念なことに、彼女のセールストークは成功しなかった。

私は入会の意志を決めて、その場で申込書に記入をし終えた。
そしたら、彼女がおもむろに
「では1000円のお支払いをお願いします」
と言った。
私「えっ?1000円?今払うんですか?」
NOVAガール「はい、先ほど説明しましたが…」
名称までは覚えていないが、入会時の手数料だか何かだったような気がする。
とにかく入会金とかレッスン料の一部の手付金とかではなく、全く別項目の手数料だった。
なんとなく、不意をつかれたように請求されたお金をたった今すぐ払うのに抵抗を感じたので
「そうですか…、すみません、聞いてなかったみたいで…。でも今持ち合わせないです。後日でもいいですか?」
と私が言うと
「えっ?後日?」と顔色を変えてNOVAガールがうろたえ出した。
そして腕時計をチラッと見て言った。
「ATMはまだ開いていますので、銀行で引き出されたらいかがでしょう」

「はっ?ATMで引き出し???」
ササーっとセキュリティ部隊が私の頭の中で一列に並び盾を構え出した。
そこまでして今この1000円を払わなければならないのか?
例えば、たった今、役務や商品の提供を得たのにも関わらず「持ち合わせないです」なんて言うのならば、「ATMで引き出してきたらどうですか」と言われるのも仕方がない。
しかし、まだ何も提供を受けていないし、申込書を書いただけ。
それに、私は一括では払えないのでローンを組むことになる旨も話していた。
だから、申込書を記載した時点で発生する現金での支払義務があるのは不可解である。

この日は話を聞きにきただけで、入会申込書まで書いたのは偶然の成り行きにすぎない。
しかも、バンドの話で盛り上がったどさくさ紛れというものも加勢している。
大金が流れ出る一大決心だから身構えていたので「なんか違うぞ」感が優勢になってきた。
「すみません、入会やっぱり取り消します。一度家に帰ってから考え直します」
と、私はそう伝えた。
するとNOVAガールが焦り出した。
「ちょっと待ってください。」
そう言って、奥の部屋へ引っ込んだ。
そして、数分して戻ってきて言った。
「1000円は次回でいいです」
「はい?さっきは絶対今日払わなければいけない勢いでしたよね?とにかく申込書は破棄してください。」
と私が言うと、NOVAガールがおろおろしてまた奥へ引っ込んだ。
そして戻ってきて、なんとか引き留めようとする言葉を述べる。
この異様な引き留めぶりに、申込書を目の前で破棄されるまでは帰るわけにはいかないとまで思い始めた。

NOVAの中堅社員のような人が登場

NOVAガールは度々奥へ引っ込んでは戻ってきて、引き留めセリフを言っていた。
おそらく奥に上司か誰かいて指示を仰いでいたのだろう。
その行動も余計に私のキャンセルの意志を強くさせる要因となった。
何度かのNOVAガールの奥へ引っ込んでは戻ってくるという行動の後、とうとう、奥から上司なのか先輩なのか中堅と思しき男性が出てきた。

NOVA中堅「すみませんね。彼女はまだ入って3ヶ月の新人で失礼があったようで」
私「そうですかぁ」
NOVA中堅「しかし、もったいないですね」
私「何がですか?」
NOVA中堅「いや、だって、そこの自動ドア、入りにくかったでしょ」
私「いや、別に...(故障でもしてるのか?普通に開いたがね)」
NOVA中堅「えっ?そうなんですか?みんな、あそこで立ち止まって中に入ろうかどうしようか迷うんですよ。しかし、あなたは、そこを思い切って入ってきて、せっかく英語を話せる第一歩を踏み出したのに、このまま何もせずに帰るなんてもったいないじゃないですか」
私「はー、そうですか。でも、今日は話を聞くだけのつもりできたので、そんな思い切って入ってきたわけではないです」

そしたらNOVA中堅、この場に及んでこんなことを言い出した。
「ちょっとレッスン風景見て見ませんか」
入会の意志はもう全くなかったがレッスン風景は見てみたかった。
どうしようか考えたが、見るだけならいいかもと「はい」と答えた。
そしてテーブルを立ち2階へと案内された。

禁煙ブースでのレッスン風景

2階には3〜4畳の透明な部屋のブースがいくつかあった。
まるで、今で言うところの駅などで見かける禁煙ブースである。
そのひとつではレッスンの真っ最中で、外国人男性が日本人女性に英語で何やら話していた。
NOVA中堅が私に尋ねた。
「言っている内容わかりますか?」
「うーん、最初のwhat くらいかな・・・」と私。
「どうですか?興味ないですか?」とNOVA中堅。
私は「興味はあるけど・・・」と言いつつ
”しかしなんだろな、このクリアケースの中でレッスンって。レッスンというより商談って雰囲気だなぁ”と思いながら
「興味はありますけど、やっぱり一旦申込書は破棄させてください」
とそう言った。
NOVA中堅 は「そうですか」と言って、一同で一緒に階下へ戻るよう促した。

まだ懲りずに引き留める

階下へ戻るとNOVA中堅がまたなんか言い出した。
「でも申込書まで書いて、すごくやる気で来られたのにもったいないですよ。教室見て興味あったでしょ?それなのになんで…何がそんなに頑なにさせるんですか」
そりゃ、NOVA側にとってはもったいなくてしょうがないだろう。
せっかく申込書まで書いたお客さんを取り逃すことになるのだから。
「あのですね、さっきの『ATMで引き出してきて』で不信感が募りましたよ。そんな些細なことでって思われるかもしれませんけど、もともとは話を聞きに来ただけなので。一度失くした信用って取り戻すのに時間かかりますよね。今日のところはもうキャンセルの意志に変わりはありませんので、申込書をこの場で破棄してください。」
そう私がキッパリとした口調で告げた。
NOVA中堅 が「わかりました」と言い、諦めたように私の目の前で申込書を破いた。

その後何度も電話がかかる

その後、何度も何度もNOVAガールから電話があった。
基本的には謝罪の電話だが、もう一度NOVAに足を運ばせるためのものだと思われるような内容でもあった。
とにかく、しつこいくらいに何度も電話があった。
キャンセルしたのは彼女の失言によるものではあったものの、会社からここまでさせられる彼女を可哀想にも思った。
かといって人助けのために無駄に大金を払う広い心は持ち合わせていない。
毎回、可哀想だと思いつつもお断りした。

あとがき

この件があるまでは
「大金が必要だけど大手英会話スクールがいいのではないか。それだけの価値もあるだろう」
と思っていたが、この件で他の大手英会話スクールを見学に行くこともしなかった。
他にいくらでも素晴らしい大手英会話スクールがあったのだろうが、もう念頭にはなかった。

現在のNOVAは、どのようなシステムかはよくわからないが、別に変な噂を聞くこともないし、おそらく英語に興味のある人たちのお役に立っているのだろう。

私はといえば、NOVAの件の直後から、冒頭で述べた友人の通っていたアメリカ人宅へ英会話を習いに行き始めた。 この選択は私にとってはとても良かったと思っている。

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