輸入事後調査

2018年8月

突然やってくる輸入事後調査・・・輸入申告の実態

税関事後調査や事後調(ジゴチョウ)とも呼ばれるこの輸入事後調査は突然やってくる。
本当に文字通り「ある日突然」電話がかかってきて約1ヶ月後の調査日時を告げられる。
輸入を手掛ける会社(または個人)にとってはドキドキ緊張の調査である。

もっとも、清く正しく嘘偽りなく申告して輸入しているのであれば何もナーバスになる必要もないのだが、実はこの調査によって指摘を全く受けなかった輸入者は3割程度にすぎないという。

貿易よもやま話
輸入事後調査の状況(財務省)

これは調査された輸入者における割合なので、調査をされたことのない輸入者を含むと真っ当に輸入している会社(または個人)の割合は更に低くなる可能性はある。

では、7割という決して低くはない割合の輸入者がみな故意に不正を働いているのかといえば、そうではない。
中には悪質な不正を働く輸入者もいるにはいるらしいが、事後調査で指摘を受けるほとんどが、輸入に関して適切な知識を持っていなかったことによるものである。
輸入事後調査の目的は「申告漏れの指摘」であるが、上記の理由から「適切な申告を指導する」のも目的のひとつとなっている。

輸入事後調査へ向けての準備

さて、この輸入事後調査、私が現職について10年目の2016年夏に初めて経験した。
冒頭で述べたように、ある日突然、管轄の税関調査員から電話で調査日時を述べられる。
通常の調査対象年数は過去3年だが、今回の調査対象は過去5年を告げられた。
前回の調査が2001年で15年もの間調査が行われなかったからのようだ。
電話の後、準備すべき書類のリストや税関で記録されている弊社の過去5年の輸入履歴がメールで送られてくる。
輸入履歴には、輸入先の名前、申告額、AWBaA輸入許可番号などが記載されている。

1ヶ月後の調査へ向けて必要書類を準備するが、毎回きちんと保管していれば特に慌てて準備するものでもない。
輸入許可証、インボイス、送金の控え、AWB、経理部門の記録、そして会社の組織表である。
準備する書類リストにパッキングリストも載っているが、これはあまり重要ではない。
通常はインボイスに商品の詳細が記されているので、それで箱の中身が明確だからだ。

万が一、輸入許可証、インボイス、AWBを保管していなかったとしても、その商品の通関代行をした業者に依頼すればコピーを頂ける。
クーリエを利用したのであれば、そのクーリエが通関代行するのでクーリエに依頼すればよい。
しかし、通関代行業者での通関書類の保管義務は3年なので、3年を超える以前のものは破棄されている可能性が高いと思っていた方が良い。
だから、調査対象が過去5年ともなれば、もし必要書類を保管していなかった場合、過去4〜5年の書類は取り寄せることもできない。
もし、よくわからずに輸入する場合は、輸入にかかる書類はすべて保管しておくべきである。

心当たりがあったアンダーバリュー

実は輸入事後調査に向けて心配なことがあった。アンダーバリューである。2社ほどあった。
1社は、頼みもしないのに輸出側が勝手に低額のインボイスを箱に添付していたのである。
箱につけるインボイスは、輸入者に送るインボイスと全く同じものをつければいいだけなのに、輸出者はなぜかわざわざ別に作成した低額のインボイスを箱に添付してきたのである。
違法だから止めるよう注意してからは止まったが、私が気づいたときにすでに数回の取引があったので、その分はアンダーバリュー申告になっていた。
この低額インボイスを添付し続けてきた会社、あろうことかアメリカの首都に拠点を置く日本人経営者の会社だった。
アメリカには輸出税はないので、この会社がそうする理由が全くわからなかったが、単にいい加減な会社というだけのようだった。
余計なことだが、日本人はキッチリしていると言われるが、この会社はそんな典型的な日本人の評判とは真逆で、万事においていい加減な会社であった。
それは、アメリカに住んでいるからというわけでもないと思われる。
なぜなら、他の取引先はアメリカやヨーロッパの現地の会社だが、そんな違法行為をするようないい加減な会社には今のところ1社も出くわしたことがないからだ。

もう1社は、三国間取引である。
インドの原産地から直接商品が届いたのだが、それに添付されていたインボイスの金額が原産地からベルギーに拠点がある売主(原産地から見れば買主)に対するものだった。
つまり、弊社がベルギーの売主へ支払った商品金額より結構な低額で通関申告されたのだ。
この場合、スイッチングインボイスといって日本での通関時に輸入者が支払った(もしくは支払う)商品金額のインボイスに差し替えなければいけない。

しかし、当時の私は「無事に通関も終わり手元に商品が届いたということは問題ないのだろう」と軽く考えていた。 輸入事後調査なんてものがやってくるとも知らずに・・・。
これらのアンダーバリューの件を当日調査に同席する経理部長に説明して指示を仰いだ。
「何か訊かれたら正直に答えなさい。」
とだけ言われた。

輸入事後調査当日

輸入事後調査は丸2日間に渡って行われた。
管轄エリアの通関調査員が2名見えて、弊社からは経理部長、経理担当者そして輸入担当である私の3名が対応した。
1日目の午前中は、調査官から2日間の調査の流れや調査の目的などの説明を受ける。
意外にも調査官たちがフレンドリーで笑いなどを交えて話すので少し緊張がほぐれた。
1日目の午後から調査が始まる。 調査官が税関で記録されている輸入リストとこちらで準備した書類や経理の帳票などを1枚ずつ確認していく。

当然のようにアンダーバリューのインボイスが調査官の目に留まった。
「ん?これは、金額が違いますが・・・。なぜですか?」
私が経緯を具体的に話すと、その後は、その取引先の書類を念入りに調べられた。
そうしつつも、変わらずフレンドリーに話をする調査官。
そのフレンドリーさを保ちつつ気さくに訊かれた。
「他にもありますか」
一瞬、止まった。こう単刀直入に訊かれるとは予測していなかった。
しかし、「訊かれた」からには「正直に答える」しかない。
三国間取引でもアンダーバリューがあることを答えた。
「あー、三国間取引でもありがちですよねぇー」
と、和やかに話しながら調査官たちはその取引にも特化して調べた。

輸入事後調査の結果

アンダーバリューの件は、弊社側の意図的なものではないので悪質性はないものとして追徴金まではなかった。
正規のインボイス額で申告すべきだった差額の関税・消費税を未納税分として修正申告するよう指摘を受けただけである。
もし、これが悪質なものだと判断されたら追徴税の支払いは免れない。

意外にも、調査官からは、私の輸入知識や書類の管理について賞賛の言葉を頂いた。
これには非常に驚いた。なぜならば、私の輸入に関する知識なんて、輸入を生業とするなら誰でも最低限知っているべきことだと思っていたし、準備した書類なんて最低限保存しておかなければならない書類(オーダー確認書、プロフォーマインボイスまたはインボイス、海外送金依頼書、AWB、輸入許可証)を引っ張り出してきただけだからだ。
まして、アンダーバリューがあり修正申告をするよう指摘を受けたのに。
調査官の言葉がお世辞でないなら、輸入に関して知識不足の輸入者がいかに多いかが伺える。
冒頭で述べた「輸入事後調査で全く指摘を受けない輸入者は3割程度」というデータが確かであることを悟った出来事だった。

参考までに

輸入する商品以外にも関税はかかる。また、輸入先の国によっては輸出者に輸出税がかかる。
このことを知らなければ、知らない間に脱税してしまっている可能性もある。

輸入商品以外にかかる関税

  • ・日本に到着するまでの送料
  • ・海外取引先へ支払った商品代以外の手付金等
  • ・海外で買付けを行ったバイヤーへの買付手数料
  • ・修理や返品交換のために海外へ送り、日本に戻ってきた修理品や交換商品
  • ・日本から原料を輸出し海外で加工して輸入した製品
  • (加工代だけでなく一旦輸出した原材料も含めて課税対象となる)

関税の課税対象にならないものに「日本国内で発生した送料や手数料」があるが内容にもよる。
例えばFedexやDHLなどのような door to door の配達だと、海外から日本国内までの送料と日本国内で発生する送料とが分けづらいので、CIFであろうとFOBだろうex-worksだろうと基本的に送料の全額が関税の課税対象となる。
クーリエに依頼して国内費用を別に算出してもらうことも可能のようだが、クーリエにとっては面倒な作業となる。
その分の手数料がかかるようなことがあれば、関税を払うより高くつくかもしれない。

輸出税のかかる国

輸出税のかかる国から輸入するときは、輸入商品にアンダーバリューのインボイスを添付されていないか注意が必要である。
中国や韓国などアジア圏のいくつかの国には輸出税がある。 それらの国からの輸入商品に、その国での輸出税を免れるために故意に低額のインボイスが添付されていることもあるらしい。
それを知らずに、商品が日本へ到着したときにそのインボイスで通関申告が行われると、立派なアンダーバリュー申告になって知らぬ間に脱税行為をしてしまうことになる。

アンダーバリューとは

輸入商品には、必ず箱の外側にインボイスが添付されていなければならない。
先方が輸出に明るくない場合でも、通常は配達業者がインボイスを添付するように指摘する。
そして商品が日本に到着した通関時には、その箱に添付されているインボイスの金額によって関税と消費税が計算される。
だから、輸入商品に添付のインボイス金額と輸入者が輸出者へ支払った(もしくは支払う)金額は同額でなければならない。
ところが、関税を少なくするために、故意に輸入者が輸出者に実際の送金額より低額のインボイスを箱につけるように依頼する。
これがアンダーバリューと言われるものだ。立派な脱税行為で違法である。

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